FZ1000 Diary Part52   The Index of FZ 1000 Diary HOME

         
   南へ
           
    知覧へ行って来い。


 地霊を感じて来い。ということだと理解した。

 行ってなにがあると疑って行かないより、行ってみた方が自分のためだろう。

 ある人達は13時間で着いたそうだ。なら、2日。土日があれば行けるのか。
 で、疲れていたら月曜に休めばいいか。

 しかし、一人旅だ。
 テンションを持続して、走り抜けるのはつらいかも。

 バイクはFZ。

 現地でタッチ&バイしてきては地霊もなにもあるまい。記念館とやらに行くなら、開館時間というのもある。
 行くべきところは知覧の他にも長崎、広島などがあると言う。

 一度に回れるわけではなかろうが、

 さらに、懐具合の問題もある。3日間走ってETC割引の恩恵を受けるためには3連休が必要だ。じゃ、もうすぐGWだからその日だな。

 で、あるところで、知覧と言ったら、少し勉強して出かけると有意義だとも言われた。
 へそ曲がり? 地霊の神聖性を貴ぶなら、小賢しい予備知識なんか失礼ではないか?

 またある人は言った。知覧の霊はついて来るんだそうだ。
 昔、どこかで読んだのだが、エンジンに跨がっているのは飛行機乗りとバイク乗りだそうだ。
 仲間と思われてついて来るならそれもよかろう。彼らは、ついて来てもいずれ帰って行くとも言っていた。
 ひととき一緒に過ごすなら、なおのこと、タッチ&ゴーでは失礼だろう。

 そうやって、いろいろ考えれば、武勇伝を作るより、寄り道の余裕を作って、最初から3日を予定して出かけるのが妥当だろう。

 何も調べる気はなかったのだが、最近、行ったという人の話を聞いていたら約1,500kmだそうだ。どこかで、2,000あるとか聞いた気がするんだが、そこまでないのか。

 だが、往復3,000という数字にFZが挑戦できるものなのかどうか、これまた考えていない。

 最近、キャブをいじって、よくなったようなならないような。それより、他に不安はないのか?
 かすかな異音はつぶさなくて平気なのか?

    なにも考えてないに等しい。

 そんな感じで走り出した。

 さて、何時に出るか。

 一人旅というのは強制もされないから難しい。
 朝に弱いと嘯いて、普段から、8時前に出るなんてことはほとんどしないのだが、琵琶湖行きでは集合が5時だった。18時間かかると考えて、6時に出るか・・・
 6時に暖機開始、6時15分発進。6時半に給油して、東京インターへ。

 GW初日。渋滞は??
    10分ほど走って、大和あたりで渋滞が始まったが、いつものこと? そんなに長い渋滞ではなく解消した。その後も、断続的に渋滞はあるものの、本格的なものには巻き込まれずにすんだ。

 先は長い。1,500km?あるのかないのか?
    じたばたアベレージを上げても仕方ないだろう。S県警の外貨稼ぎに協力する気もない。普通の車の速さで走る。
 バイクに問題はないのか? ダメなら早めに見つかってくれた方がありがたい・・・・

 そんな手探りもあって、淡々と走っていると、渋滞しててもしてなくても、タコの回転数が一定・・・・
 さっきから、真上を指して止まっている。別に壊れているわけでもないようだ。

 そんなことしてるからか? さほどのスピードでもないのに、見えるバイクのほとんどに追いつく。
    1台、2台? 抜いていくバイクもいるが、あえて追い上げなくても、また追いつく。

    燃料計とのにらめっこが続く。300kmは走れそうか? と、思っていると、静岡で空が黒くなってくる。
 え? 雨って予報あったっけ?? 関東しかチェックしてないからなぁ・・・・ 路肩でレインスーツを着ている非常識を眺めながら、最寄のPAに入ると遠州豊田だった。

 さすがに、レインスーツは持っているが、晴れてくれないものかと空を見上げる。

 一面黒雲だったのが、すこし陽がさしてきた?

 抜いたバイクがたくさん来る。30分ほど雨宿りして、ほとんど上がったところを再スタート。

    浜名湖まで来たが、まだリザーブになっていない。もうひとつ先まで行ってみる。ぎりぎりリザーブになるかと思った頃、上郷に到着、給油。

  上郷SA 306.5km 17.93l

 しかし、さっきから、なんで、南へ向かっている気がするのだろうか?

 北へ向かうのとは明らかに感じが違う。
 体内磁石がそんなに敏感に気持ちを動かすわけもあるまい。
 左に太陽があるから? 単に、いつも走っている道と違うから? 南だとわかっているから?

 明確な答えはないが、事実、西へ向かいながら南のイメージが湧いてくる。

 10時近くなって、まだ、1/5・・・・  そういえば、東京インター直前の給油でリセットしたトリップメータがかなり正確な値を指している。キロポストの300km、400kmで、ほとんど誤差がない。300mずれていても1/1000の精度だが、それ以下のようだ。

 新名神の分岐表示が出る。一度、新名神を走ってみたかったのだが、ルート確認もしていなかったので、よくわからないから、そのまま旧名神を走る。

 淡々と、時間と距離の流れの中を走って、琵琶湖を通過。そろそろ、ここ数年、来ていないところまで来た。京都に午前中に入れれば、約500km/6時間で18時間ペースか?

 12時前に、京都ICを通過。雨宿りで追いつかれ、抜かれた覚えのあるバイクも、そろそろ、ほとんどを抜き返した。

 吹田から先、中国自動車道はクルマでしか走った記憶がない。
 千里? あたりでなんで練馬ナンバーのバイクを抜かなきゃいけない??

 あれ? この先、中国だけじゃなく、山陽道もある? どっちでも行けるのか??

 確認と、ガス補給で止まったところが西宮。

  西宮SA 539.4km 12:00

  西宮SA 539.4km 17.93l

 大阪の呑田にメールしたのに遊びに来てくれないらしい。せっかくここまで来てるのに。

 しかし、駐車場にいるバイクは品川だ、千葉だ、川崎だ、大宮だ?? 関東人ってバカばっか??

 案内所でコースを確認すると、山陽道でも下関まで行けるらしい。しかも、30km?くらい短いのだと。どっちでもいい距離だが、山陽道を行くことにして、給油後、走り出す。

 やはり、平均移動時間100km/hで、給油休憩300kmに1回とすると、500km/6時間ペースらしい。決して、速くはないわけだ。

 SAで山陽道は事故が多いから、渋滞すると中国道のほうが早いと言っていたが、その通りに、3台? 追突の派手な事故で渋滞していた。

 山陽道に入ると風が強い。
 東名でも強かったが、こっちはさらにひどい。

 山の中を走っている分? 左右が開けたとたんにどっちからか風が吹いて流される。出たとこ勝負で構えていないといけない。
 道は空いていて、ペースを上げたいのだが、トラックを抜くのに、一度吸い寄せられて、突き飛ばされる風の繰り返しにかなり疲れる。

 朝からのペースメークが低すぎたのか? 今から上げようと思っても、思うように上がらない。風が怖い。ともかく走り続ける。

    さっきから、ちょっと気になる音がする・・・・

 なに??

 ときどき、バチッというような音がフロントから聞こえてくる。

 なに??

 線香花火がはじけるときのような音・・・・  バチッ・・バチッ・・ 電気??

 いや、電気系統が聞こえるほどの音を出すとしたら、もっととんでもないことに・・・・

 なに??

    給油時にフロント周りを見てみたが、特に異常は見えない。

  福山SA 748.1km 14:43

 これって、ブレーキパッドを替えてみる気になった引きずり音が悪化した?

 音は大きくなってる? 頻度も上がってる?

 なんだろう? フォークが引っかかってる? ワイヤが当たってる? ブレーキ周り? ホイールベアリング? HIDが誤作動してる?

 音が大きくなってきたので、給油直後だが、次のPAに入ってみる。

 空走してみても音は聞こえない。押して歩いてみるがよくわからない。HIDのLo/Hi切換音? それが一番近いのかも?
 よくわからないまま、再発進すると、PAを出ようとするときに、なんだか、ガリガリという音が。いやな音ではあるが、原因はわかりそうにないし、走行への障害は出ていないので走り続ける。

 ホイールベアリング? だとしたら、このまま走れるのか? ダメなら、いきなりフロントロック?

 ライトを点けたり、Lo/Hiを切換えたりしても、同じ音は出ない。???

 原因が分からないまま、スローペースで走ってみる。しかし、ある回転数では音がしにくい気がしてきた。そのあたりをキープして走ってみる。

 もうすぐ、800km。異常を抱えて、後、2200kmの行程を走りきれるのか? 帰るなら今のうちか? どこかで修理か? クラッシュしないよな??

 しかし、先ほどから、加減速、走行安定性、エンジン回転といった、走行に影響する異常は感じられない。ただ異音がするだけだ。
 帰るべきかどうか考えながら、前に進み続けていると、速度計の針が震えている。

 え? 針って震えたっけ?

 音は、バチッというか、ジャリッというかそんな音だ。メータワイヤーの被服のスプリング状のものが千切れかけてるとか?

 そうだったらしい。
 しばらくして、速度計は沈黙した。トリップも844kmで停止。

    なぁんだ。走行には支障がないのか??

 音の原因が分かって安心したものの、この先、距離も速度も分からない。

 バイク用品店でもあれば、メータケーブルが手に入るかなぁ。しかし。カウルはずさずに交換ってできたっけ?
 鹿児島まで今日中に着くには、部品を探して換えている時間はない。
 うまくすれば、知覧で10,000kmを迎えるはずだったオドメータも進まないという有様だ。

 と言っても、しょうがない。

 ガス補給で佐波川SAへ。
  

  佐波川SA ???.?km 18:00?

 18時近く。スタートから12時間で900kmくらいか? 「それでは今日中には鹿児島に着かん」というメールが入ってくる。

 風さえ収まればもっとなんとかなるんだが・・・・

 給油すると、スタンドのお兄さんが、今日は風が強いでしょう?と言う。怖いです、と応えると。関門橋をわたるときは気をつけてください。と言う。

 あ?? 橋だっけ?? そうだよな。昔、トンネルは通ったことがあるんだが、橋は初めて?

 で、この風??

 山陽道は、瀬戸内海を見下ろせるような位置を走っているために海風が吹いているのか、それとも、今日に限って風が強いのか。どちらにしろ、ありがたくない風だ。

 そういえば、今日の日の入りは何時だろう? 日が暮れる前に関門橋を渡れるのか?
 夕日を真正面に見て、西へ走る。

 ペースを上げればなんとかなりそうな距離だが、風のせいでペースが上がらない。
 そうも言っていられないので、がんばって走る。

 関門橋到着。まだ日は沈まない。
 夕焼けに染まる橋を恐る恐る走る。

 だぁ〜からぁ〜。下が見える橋は、いやなんだてばぁ〜

 瀬戸大橋での恐怖の記憶が、よみがえる。

 瀬戸では路肩にガードレールがなかったような気がしていたが、ここと同じ構造なら、あったことはあったのだろう。

 棒が立っている間にロープを張ったようなガードレールだ。

 だぁ〜からぁ〜。ここでコケたら、ヒトはくぐりぬけちゃうでしょ〜

 こんな高さから落ちることを想像するだけで気絶しちゃうかもしんないんだからぁ〜

 まぁ、怖い思いをしながらも無事通過。

 古賀SAで恐怖を癒す。

 後、何キロあるんだ??

 道路標識は熊本まで150くらいとしか出ていない。だから、その先はどうなのよ?

 まぁ、熊本が中間くらいだから300kmちょっとか?

 後1回給油すれば、高速を降りられる。今日中に着きそうじゃない?

 知覧には宿はないとかいう話で、最初から宿の手配もしていないから、最後のSAで仮眠という手もある。今は、最後の詰めをひたすら走る。

 日が暮れてから丸い月が左の空に輝いている。

 満月は昨日だったはずだが、知覧とか枕崎で十六夜を見るというのもよかろう。なら、SAでの夜明かし案は却下か・・・・

 だが、風はやまない。なんで? 本州も抜けたのに、なぜ、まだ風がついてくるの??

 熊本を通過。

 後、160km。

 ここまできたら、後少し。ひとっ走り。
 なんだけど、風のせいか、疲れた。止まりたくなって緑川PAに入る。

 ?? 桜島PAのスタンドは閉鎖中? そんなのあり?

 ガソリンはもちそうではある。ダメなら途中で降りるか。

 走り出して、カンペキにヘタレな走りを展開していると、後ろから来た車に抜かれた。

 ペースが低い自覚があるから、左へ寄ろうとしていると、もう1つのヘッドライトが左から抜こうとしてやめたらしい。

 左へ寄って、やりすごすとバイクだ。
 普通、ああやって、さっといなくなるよ・・な・・・・

 いなくならない?

 まぁいいや。ちょうどいいから、ペースメークしてもらおう、と着いていく。

 が、あんた、あんまり×××××?

 最初に抜いていった車が、ふつ〜の速さ−さっきまでは追いつかなかったのだが−で先行しているのをぎこちなく追っている。
 3台目に徹するつもりだったのだが、車線変更を繰り返すうちに、こちらが前に出てしまった。

 まぁ、抜きたければ抜くでしょ。

 バイクをあてにせず、車の後ろを走る。

 しかし、トンネルが続いたりすると、風がまた怖い。

 つかず離れずしているうちに、カーブで遅れをとった。

 だって、暗いんだよ。

 先を行く車の前のRがほとんどわからない。

    でも、離れちゃったら、もっとわからない。

 もたもたしているのに、後ろのバイクは抜いていかない。

 疲れたぁ。

 いっぱいいた関東のバイクはもうどこかの宿で酒盛りしてるんだろうな。

 あったか〜いふ〜とんでね〜むるんだろな・・・・

 馬鹿な歌を歌ってみるのは精神疲労の表れ??

    例の車にまかれそうになったところで鹿児島インター到着。

 料金が2,000+αなのは、どこで加算されたんだ? まぁ、いいや。

 スローダウンして市内へ。

 00時前に着いたぞぉ。

 って、知覧はもう少し先か・・・・

 市内で一服してみるが、特になにも期待するものがない。
    適当に休んで、すぐにまた走り始め、225への分岐を求めて3号線を探す。

 3号だか、10号だか分からない国道は一桁の癖して、妙なところで直角に曲がる。ロストしそうになりながら、給油後、なんとか225へ入る。

 こちらも、県道以下かという道で、商店街の中を抜けたりしながら、少しづつ郊外へ向かう。

 そのうち、標識が226になっていることに気付いた。少し手前の交差点で225は右へ分岐していたらしい。直進で226になってしまう。300mほど戻って、225へ。

 暗い田舎道になってしばらくすると、右側に道の駅が。あれ? あったんだ? 下調べでは226にしかないかと思っていたんだが。
  
 ひょっとすると、ここで夜明かしの可能性もある。立ち寄って下見。
 数台の車が止まっていて、休憩所がある。20畳くらいの休憩所は寒そうだが、風は防げる。

 さて、まずは枕崎へ。

 途中、知覧という標識を見ながら、枕崎を目指す。

 枕崎到着。

 だから、なに。というわけもないのだが、月を見上げて一服。

 知覧へ取って返す。漁港の電光掲示板が1字26分と表示している。

   知覧
           
     来た道を引き返す。
 明日はまたこっちへ走る予定だ。で、なんで、こんなところを1往復半もするのか? と考えてみたら、枕崎で月を見たかったからだけだ。

 なにもない暗い道だが、コンビニが数件ある。しかも、この時間に開いているということは24時間営業か?
 まぁ、こちらにはありがたいが。

 1軒に寄り、買い物。
 地霊に会いに行くセンチメンタリズムなら、酒くらいは必要か?

 やっぱり、発泡酒じゃないよな?
 ありきたりのワンカップを仕入れる。

    さて、知覧へ・・・・・

 あれ? 分岐を見落として道の駅まで来てしまった。
 地図を確認して、引き返す。

 こちら側にはちゃんと道標が立っていた。知覧への道を進む。

 なぜ、飛行場が山の中にあるのだろう?

 しかし、それは素人の問いなのかもしれない。そもそも、空を飛ぶものの基地。気流が安定していればどこにあってもいいわけだ。海岸の方が風が荒れることも考えられる。
 本土で一番南の基地として位置づけられたわけだ。

     記念館があると聞いていたが、特攻平和会館という標識が見えた。これか?

 ぐるっと一周して、人気のない駐車場へ入る。

 いろいろな施設と並んで、平和会館と神社がある。

 しばらく歩いて回ると、三角兵舎というのがあった。特攻隊の宿舎で壮行会もやったところと書いてある。

    ワンカップを取り出して、ふたを開け、兵舎の横に立つ観音様の台石にかけてみる。で、一口だけ相伴。意外とうまい。
 もう一口となりそうなところを、そのまま置いて去る。

 午前3時前。このまま、朝まで時間を過ごせるところはないか。

 屋根の下のベンチで、カッパを着込んでみるが、まだ寒い。

 凍死はしないだろうが・・・・ やはり、ろくなことはなさそうだ。
 道の駅へ戻る。

 戻る闇の中で考える。地霊は何かを語ったか? まだよくわからない。

  
 道の駅の休憩室に逃げ込んで、一夜を明かす。
 朝に分かったのだが、2組くらいキャンピングカーで泊まっていた人がいたらしい。

 朝日で温まりだした室内で8時過ぎまで過ごし、会館の開館に合わせて8時55分出発。

 平和会館につくと、昨夜の酒はなくなっていた。掃除されちゃったらしい。ごめんなさい。

 平和会館に入る。

    外周から展示を見ていくと、当時の最新兵器なのか、それとも、やはりどこかに無理があって特攻という手段に進んでいく前触れなのか、60年前の兵器が並んでいる。

 中心部の展示は、特攻した人たちの写真と遺品だ。

 多くの名前が並ぶのを見るうちに、自分と同じ姓があったらどうしようかという気分になった。

 それらしい話は聞いていないから、同姓でも、単なる偶然なのだろうが。ここで過ごした人たちを身近に感じることへの恐れというか、不安があり、すべての名前を追う前に、見るのをやめた。

    いろいろな感状がある。

 ○○少尉殿。・・・・・大型艦船二隻を撃沈させる戦果を・・・

 え? 二隻? 読み直してみると、感状の宛先は「○○少尉 他一名」だった。

 戦闘機は高いものであり、特殊な技量も要求されるから、パイロットは将校である。その少尉様以上でありながら、誰の戦果かすら判らず、その他一名とは・・・・・ 戦果を上げずに死んだ人々もはるかに多かったことを示すのだろう。
 特攻とは極限の中で死を命ぜられ、遺書まで書く形式を伴ったものだ。
    しかし、いきなりバンザイ突撃を命ぜられた多くの歩兵との境遇の差も気にかかる。

 寄せ書きの中に「武運長久」とあった。
 「長久」とは勝って凱旋することを含むものと思っていたが、ここでも使われたのか?

 思いが違うからこそ言えるのだろうが、この言葉は、勝ってこそ武士という意味でもあると思いたい。

 平和会館を出て、周りを散策する。
 隣は神社で、観音様のお堂もある。

 と。観音様の前に昨夜のワンカップがあった。
  
 場所柄から? ゴミとは思われないで済んだようだ。

 線香を上げ、レトロにタバコを供えてみる。

 会館の周囲も近くの沿道も石灯篭がくまなく並んでいる。
 送り出した人たちの辛い思いの大きさを示すものだろうか。

 さて、地霊が語るものはあったのか?
 寒さに逃げ帰る半端なバイク乗りに語る言葉などないのかもしれない。なぜ、とか、こういうことだったのか? とか、こちらから語る言葉しか湧いてこない。しかし、沸きあがる自分の言葉を羅列しても、一瞬の感傷でしかない気がする。


 あったこと。見たことを事実として伝えていくしかないのだろう。

   北へ
           
     さて、形ばかりは整えた。後は、帰るばかりだが、ほんのちょっと南へ下る。

 225を走り、枕崎の寸前で分岐する270へ回って、北を目指す。

 270は生活道路というのか、田舎道というのか、昼前のこの時間、のんびり走っている車が多い。

 制限速度にも満たない速度で走っている車について、黄線での追い越しを控えていると、延々と黄線である。

 全長はそんなにないはずだが(50km強)、1時間走っても、黄色線である。

    全線黄色か?? と、思ったころ、やっと譲り合い車線とか、田んぼの真ん中の白線とかが出始めた。

 そのうち、突然、海に出た。
 海岸沿いを走る。

 海沿いで休憩しようと思っていると、なんだか休憩所?のようなものがった。

 農協あたりのみやげ物屋? 奥にもなにか施設があるようで、夏は泳げるのかもしれない。
 お腹も空いてきたころで、施設の中心にある市場をのぞく。
 ちょっと土産をというより、新鮮な海の幸を安くみたいな店だ。

    その場で軽く食べられるものということで、結局、入り口でおばあさんが売っていた、てんぷら? 本場のさつま揚げを買う。

 いろんな種類を2つ3つと思っていたのだが、グラム売りだということで、野菜入りとかいう、東京で普通にさつま揚げと呼びそうなものを買う。ついでに、卵なんとかというはんぺんを揚げたようなものを買うと、おまけしてくれた。

 横の海沿いで食べると、へぇ、これがオリジナルか。と、思えて、山芋?の食感が香ばしくおいしい。
 さて、走り出す。国道270を完走。

 本当は近くの国道をもう少し走りたいが、今回の狙いは大物の9号だ。
 少なくとも今日中には九州を出ないといけない。

 3号を鹿児島方面に戻って、高速に乗る。

     高速に乗ったのが2時前。大分方面へも行ってみたかったが、時間がない。

 また、延々と高速を走っていて気がついた。

 風が強い。怖い。速度が出ない。は、その通りなのだが、怖いの理由は高いからなのだ。
 九州自動車道は山の中を貫いている。だから、高いところを山越え谷越え、高架橋でつないだような道だ。山陽道もはるか下に瀬戸内海が見えた。

 高いのダメ。

 だから、昨日は夜になってペースが上がったのだ・・・・ 見えないから・・・・

 熊本を過ぎ、福岡が近づくと、相変わらず、風は強いが、高さは落ちてきた。なんとか、日が暮れる前に下関へつけるか?
    往きは関門橋だったから、帰りはトンネル。というのも、高くて怖いからに違いない。もっとも、下関側からは下道の予定だから、どこで切り替わるかよくわからない高速料金の切換前に降りるという貧乏根性もある。

 トンネルはどこ?と、PAのおばちゃんに聞いた通りにインターを降りたつもりだったのだが。「新門司」で降りろといいながら、そのPAはすでに「新門司」を過ぎている?? 「門司」で降りると、下道をさまよってやっと関門トンネルにたどり着いた。

 時間はロスしたが、昨日と同じ、夕暮れ前。暗くなる前に、怖くない海底を渡る。

 トンネルは2号線。さて、どこで9号に分岐するかと思っていると、かなり行ってから、「右 9号 下関」と出た。

     え? 右? 下関から9号が走ってた?? 戻る形だが、走っておかないと心残り。右折する。

    みょ〜な道を延々と走る。

 第一、道の終点が下関「駅」だというのが変。普通は、他の道に合流して終わるものだ。

 疑問を感じながら、夕暮れの関門海峡を左に見て走る。目の前に関門橋が見えてきた。
 長州藩が異国船を砲撃したあたりなのか? 大砲が飾られた土手とかを通り過ぎ、下関の市街へ。

 真っ直ぐ行くと道は191号に変わった。

 駅の裏から回ってみると、なにやら建物が。

 あ! これか?
    「下関国際ターミナル」

 国道が海路に接続する地点で終わっていたらしい。
 厳密には、どこまでが国道だかわからないが、ターミナル前から、駅までをたどって、また来た道を引き返す。

 しかし、下関は海沿いに狭い平地がある。平地というより道だけかも。そのすぐ横に崖が迫っていて、高いところに建物が作られている。

 駅近くの神社も、鳥居から急速に階段が立ち上がって、山の上の社に続いているようだ。

 暗くなった道を2号との合流点まで戻る。
  
 国道2号に合流。
 合流から結構行ったところで、給油。9号線はまだかと聞いてみると、これが9号だと言う。

 それはそうなのだが・・・、向こうもすぐに気付いて、この先のバイパスを行った先だと言われた。

 で、バイパスを行くが、9号の標識はいつまで経っても出てこない。

 だいじょうぶなのか? と思って地図(高速でもらうやつ)を見るが、まだ先のようだ。

 しかたがないから、20kmも走っていると宇部とか山口の看板が。

     ところで、もうかなり暗い。

 一昨日が、3時間睡眠で出発。昨日も、仮眠で3時間ちょっと。今日は、布団で眠ろうと思っていたのだが、小野田も宇部も市街地は国道から外れているのか、バイパスだからなのか繁華街を通らなかった。

 このまま9号に入ったら、9号は日本海側に出るまで大きな街がなさそうだ。

 様子がわからないので、小郡市街という看板に望みを託して左折する。

     市・街・・・・ どこかで見たような町並みがあるが、すぐに通り抜けた? まだ先はある? のか?
 不安を感じながら、かなりの距離を行くと前方にビジネスホテルが、と同時に、目の前を横切る「9号線」の標識が・・・・

 あ。9号線全線走破というこだわりからすると、ここから、さっきの分岐まで一周しないとダメじゃん。

 さっさと、Uターンして来た道を戻る。左折した交差点を左折して2号?9号?を先へ走る。
 思ったより先まで行って9号が分岐した。三角形になるのか、9号を走ってもさっきのホテルまではまた距離があった。
 何軒かのビジネスホテルが並ぶ町並みに入ると新山口駅だそうだ。

 適当な1軒に部屋を取り、食事もそこそこに、シャワーを浴びて寝た。

   山陰・鳥取
           
     翌朝。意外に早く目覚めて。9時前に出発する。

 昨日の2号と比べればまだ市街地という地域を抜けて山口に入る。

 この辺も歴史のある地域だから観光でもすればいいのにと思いながら、延々と走り続ける。

 すでに内陸部に入っているが、日本海に抜ける山越えで山間部に入る。

    今がどの辺だか、全然見当がつかないのだが、景色はのどかである。
 山と田んぼが絵に描きたいような平和な光景を作っている。

 とはいえ、先は長い。下関から600kmちょっとで京都へつながるルートで、残りは550kmくらいか?

 途中でめげたら、中国自動車道で逃げ帰るつもりで、行けるところまで行く。そんなアバウトな計画。

 淡々と走って峠を越えると日本海が開けた。

 ずっと片側1車線だが、そんなに交通量もない。
 黄線追越などしなくとも、そこそこに先に進んでいる。

     出雲大社。寄っていく価値はあるのだが、以前に来ているし、今は通過。

 そういえば、431だかなんだかは、部分的に走って、後少しを残していたんだよなぁ。でも、どこだったか忘れた。

    ガスストップ以外、走りっぱなし。

 時々、海が見える。風が強いのか? さっきから、いたるところに風力発電機がたくさん並んでいる。

 宍道湖が見えてきた。
 おぉ、しゃれで宍道さんに土産を買おうか。
 久しぶりに止まる。

 安来? おぉ、しゃれで安木さんに土産を買おうか。
 また止まる。

 急ぐでもなく、止まるでもなく、淡々と走る。

    鳥取の文字が見えてきた。
 さっきから砂地が多い気はしていたのだが、あの程度で砂丘とは言わないだろう。少なくとも看板くらい出ているはず。
 なんにも調べていないから、見当がつかない。

 京都まで200kmとかの看板が見えてきた。

 9時に出て、昼は回ったが、後200km。

 意外と今日中に全線走れるんじゃない?

 ふつ〜に、5時間かかったとしても夜8時。下手をすれば、高速に乗り継いで、夜中には東京に戻れる・・・・

     明日は、日曜だから、朝、横浜に着くつもりで仮眠してもいい。

 そんな感じで、焦るでもなく走っていると、前に停車車両がある。
 センターライン側によっているから右折するのか?

 その後ろに2台ほど、その車がどくのを待っている車がいる。

 減速して、車の後ろから様子を見て、左側を抜ける。

 先頭の車の後部が見えはじめ、なぜか、左ウインカが点いていないことを確認した。

 なにも問題なし、と前を向いた瞬間にその車が動いた。

 おい! なにもできん。
 と、思ったことをはっきりと記憶している。

 次の瞬間、その車の白いボディが視界いっぱいに広がって、衝撃があった。

 ドンッ 気がつくと、地面に転がっている。

 なにがあったのか、転がったまま反芻する。

 周りで人声がする。

 やってしまった。

 地面に転がるなんて何十年ぶりだろう。動く前に身体の具合を確認する。特に激しい痛みはない。起き上がれそうだ。

 立ち上がって、バイクに近づく。このまま走れるじゃ状態でないことは一目でわかった。

 起こそうとすると、指が痛んだ。右手を切っているらしい。グローブをはずすと薬指と人差し指から出血している。
 ヘルメットを取りながら、バンダナを指に巻いて止血。しびれているが、指は動く。他には外傷はない?

 FZからはガソリンが流れ続けている。

 ちょっと傾斜していることもあって、この指では一人で起こせそうもない。
 集まってきた人に、起こしたいんだけどと言うと警察を呼んだから、そのままにしておけと言う。え? ガソリン漏れてても? まぁ、逆らわないことにする。

 警察が来るのに小一時間かかるらしい。 無駄な時間をつぶすのに禁煙したことが悔やまれる。タバコを持っていたらその場で禁煙解除したのに。ガソリンはだだ漏れだが。

 FZの様子を改めて見ると、フロントがコンクリートの角に直撃されていて、カウル周りは形がなくなっている。
 気がつくと、タイヤに傷があって、フロントホイールも歪んでいる。
 フォークもダメだろう。ラジエータとオイルクーラ、サイレンサもダメだ。

 あぁあ。どうやって帰ればいいの? この状態で、バイクはどうなるの?

 気がついて、保険屋に電話する。
 連絡がとれて、レッカーサービスが来るという。
 とりあえず、この場を離れる算段はついた。

 直るのか? 直らないなら手放すのか? 言ってもしょうがないが、20年に届かずに廃車という事態に暗くなる。
 直すというか、今まで、維持に力を貸してきてくれた友人にごめんなさいと報告する。

    待つ間、東京への交通手段を聞くと、誰も明確に答えられない。
 そんなに秘境なわけ?

 来た警察は、なにを聞いてきたのか、バイクが突っ込んだという雰囲気だ。
 冗談じゃない。被害者宣言をして、状況を説明する(後日、保険屋に聞くと、0:100で相手の過失だと)。
 後は、事務的に処理をして、レッカー車で病院まで連れて行かれた。指は、6針縫われてしまった。

 帰宅ルートはわからない。おそらく、山陽新幹線まで抜けて、東京へ向かうのが普通らしい。
     しかし、山陽側に抜けるのに手間がかかるように聞いた。6時を回って、そんなことをしていたら今日中に帰れるのかどうかもわからない。

 思いついて、直通バスはあるかと聞くと、あると言う。乗り換えも面倒なので、レッカーから予約を入れて、夜行バスで帰ることにした。

 という、情けなさで旅は終わった。

 で、人車の傷は見た通りに深い。